カルト映画の巨匠デヴィッド・リンチが語る映画術
難解な作品として知られる『マルホランド・ドライブ』ですが、そのDVDには特典映像として監督デヴィッド・リンチのインタビューが収録されています。
以前観たときに大変感銘を受けて思わず書き起こしたものが、最近になって発掘されたのでこちらで紹介します。
インタビュアーとのやりとりはチグハグですが、鬼才デヴィッド・リンチの映画観と情熱がつまった名インタビューです。
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2002/08/21
- メディア: DVD
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――マルホランド・ドライブのテーマはなんですか?
テーマは語らない主義だ。
すべての要素を狙いどおりに余すところなく盛り込んで映画は完成される。それが世にでるんだ。
万全を期して世に送り出した作品について解説を加えるのは主義に合わない。
すべて作品の中で語り尽くしたはずなのに、言葉での解釈を求められるのはとても不本意だ。
完成した映画以上に説得力のある言葉は存在しない。
音楽だって、何も聴かずに解説を読んでも無意味だ。
ただ聴くきっかけになることはあるだろう。
テーマを掲げた映画ももちろん存在するが、その場合でも見る人によって受け取り方は違うだろう。
だからテーマを仰ぐより、作品を自分に引きつけて主体的に探ってほしい。
――この映画で一番言いたかったことは?
まず作りたいと言う気持ち、その気持ちがあれば入り込めるアイデアに巡り合えることもある。
運良くアイデアを得たら、胸踊らせながら形にする。映画という形にね。
その過程こそが至福の時で、すべての醍醐味が詰まっている。
惚れ込めるアイデアを得て、それを自分の表現で形にする。私にはそれがすべてだ。
――この映画の見どころは?
映画は様々な要素の集大成で、前編が見どころになる。
すべてに意味があり、全要素をフルに生かす努力をする。
理想に向かって努力を重ね、ある日作品として結実する。
だからこそ完成した映画の全編が見所になるんだ。
――解釈の難しい作品ですが、コメントを頂けますか?
音楽のように捉えてほしい。
音楽は抽象的で、言葉では表現されにくいと思われ、
一方で映画に対しては人々の見方が異なり、音楽とは違った分かりやすい解説が求められる。
理屈抜きで音楽を聴くのと同じで、映画も理屈抜きで体感してほしい。
映画でも象徴的な表現が用いられるが、自分の直感や感性を働かせれば理解できるはずだ。
観たときに自分が感じたことをもっと信用してほしいと思う。
理解できたと言う感触を人に言葉で伝えるのは難しい。
自分の夢を説明してもうまく伝わらないのと同じだ。
言葉に出来なくても理解に変わりはない。
自分の感覚を信じていれば理解の扉は自然と開くはずだ。
――ラストシーンについてはかなり迷われたそうですね。
そこに到達するまでの経緯をお聞かせください。
映画は通常三段階構成で、導入・展開・結末から成る。
意図的ではなくても、常にこの形式に落ち着く。
この作品は当初TVシリーズの予定だったので、ラストは決まっていなかった。
物語に必要な結末が浮かんでこなかったんだ。
ところがある夜、椅子に座って目を閉じると突然いいアイデアが閃いた。
そのアイデアのおかげで全容が見えた。
エンディングだけでなく、導入・展開・結末と言う全構成が変わったんだ。
数週間かけて追加分を撮影し、結末を加えると、TVドラマが映画作品に生まれ変わった。
ほんの30分の間に生まれたアイデアのお陰でね。
――数々の賞の候補にあがり受賞もされています。
ゴールデン・グローブ賞のノミネートも含め、ご感想をお願いします。
私の仕事は映画を完成させたらそこで終わりだ。
多くの人と分かち合うために作品を世界に送り出す時には、
製作者たちが公の場で作品について語ることもある。
そういう活動もムダではないが、作品は一人歩きし始めるので評価の行方は予想出来ない。
だから一番大切なのは、自分が納得できる作品を作ることだ。
それが賞の候補や受賞につながればいいことだが、
映画は作るだけで十分満足できる。
――アカデミー賞の最有力候補と言われていますが?
私はそうは思っていない。マルホランド・ドライブが評価されるのは非常に嬉しい。
このような抽象的な作品は、今までなら賞の対象外だった。
これほど賞を受けたり候補に挙がるのは前代未聞と言える。
流れが変わってきたのは確かだが、今回は全米監督組合賞の候補から外れた。
例年、全米監督組合賞の候補がオスカー候補にも挙がる。
だから今回はオスカーへのノミネートはないだろう。
――では最後に日本のファンへメッセージをお願いします
なにより大事なのはアイデアだ。それがないと何も始まらない。
マルホランド・ドライブも天啓のようなアイデアに私が惚れ込むことで誕生した。
私を熱く突き動かしたパワーを、観る人にも感じてもらいたい。
ぜひ作品を観て、未知の世界を体感してほしい。
理解に苦しんだ時は自分の直感を信じるんだ。
「言葉での解釈を求められるのはとても不本意だ。」と返されたにも関わらず「この映画で言いたかったことは?」「見所は?」「どう解釈したらいいの?」と繰り返し質問する日本人インタビュアーの姿は滑稽ではありますが、簡潔な言葉で語られるデヴィッド・リンチの言葉は聞いているだけで熱くなってきます。