『告白』

こわいこわい。生徒たちの残酷さや松たか子演じる森口先生の復讐劇や救いの無いラストやも怖いんだけど、一番怖いのは登場人物たちの本心が全然見えないこと。事件の当事者たちが事件について「告白」していくんだけども、結局それが真実なのかが最後までわからない。さながら現代版「羅生門」とでもいうべき映画でした。


シングルマザーであり中学校教師である森口悠子は終業式後のホームルームで衝撃的な「告白」をする。学校のプールで彼女の一人娘が死んだこと。その犯人がこのクラスにいるということ。そしてその犯人である2人は少年法により保護されているために、想像を絶するある方法で処罰を下すということを――


映画を観る前にパラパラと原作を読んだら延々とナレーションが続いていて、「これをどうやって映画化するんだ?」と思ってしまったけど中島哲也監督はすごくうまかった。僕は映画でもマンガでもナレーションというのがあまり好きではなくて、言葉じゃなく画で見せろよ!と思ってしまう。だけどこの映画、ナレーションが実に効果的に使われているのだ。

映画の冒頭、森口先生が淡々と話し始める。それが感情を殺したような抑揚のない平板な声で、棒読みのようにも聞こえて「松たか子どうしたんだ?」と思わされた。でもすぐにその後それとは対照的に、次々と映し出される生徒たちの表情や落ち着きの無い行動、騒がしいクラスなどが描写されて、なるほどそういう映画なのかと納得した。

まるでミュージックビデオであるかのように過剰にイメージが挿入されていたり、レディオヘッドやらAKB48やら国内外の新進気鋭のバンドやら様々な音楽が流れていたりして、映像や音楽はすごくポップで鮮烈な印象を与えている。一方で、淡々と小説をなぞるようなナレーション、色調を抑えた画面、残酷な生徒や教師、そして救いの無いストーリーはひたすらシリアスだ。この2つの要素が互いを引き立てて美しいコントラストをなしている。


森口先生が退職したあと新学期が始まり新しい教師が担任になる。岡田将生演じるウェルテルこと寺田良輝は冷たい印象を与える森口悠子とは対照的に、生徒たちと兄貴分として向きあおうと一生懸命な熱血教師だ。これだけなら良い教師に見えるが、事件のことも知らず生徒たちの表面上しか見ていない。生徒のことをわかった気になりやる気だけが空回りしている教師を、生徒たちは冷めた目で見ている。そして観客である僕も「こいつ痛いな〜」と思っていたのだけどここからがスゴイ。

犯人Aや犯人B、犯人Bの母、優等生的少女、代わる代わる彼らが「告白」していく形で物語が進行していくのだけど、そのたびに新しい事実がでてきたり、それまでの解釈が大きく変わっていって、自分も彼らのことをわかった気になっていただけだということに気付かされる。


一見この映画のラストは救いの無いものに見える。だけど少しだけ希望の見える終わり方でもある。というのも最後の森口先生の独白には矛盾があるからだ。ネタバレになるから詳しくは書けないけど、爆弾を解除したと言った一方で、爆弾が爆発したと言っていることだ。確かに爆発のシーンはあるものの、それは犯人Aの単なる想像で、現実の爆発は描かれていない。爆弾が爆発したのなら本当に救いのないラストとなるが、爆発していないのなら森口悠子が最後に語るように「これからあなたの更正が始まるのです」となる。そのセリフのあとで「な〜んてね」と付け加えるので余計に悩ましい。

事件の当事者によって複数の視点で語られるところや、最後まで真相がはっきりわからないところなど、この映画(小説)は羅生門を意識しているんだろう。爆発したのかそれともしていないのか、解釈はそれぞれの観客に委ねられている。真相は「藪の中」というわけだ。

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

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