イケメンがブスを嫌うとき

今日電車に乗っていると突然「ブス!まじブス!」という声が聞こえてきた。
本を読んでいたのですぐには状況を把握できなかったけど、どうやら二人組の男子高校生が電車を降りた女性を罵っていたみたいだ。降りていったその女性を二人で見返しながら「きめえ」とか「太!足太!」と言い続けていた。

どうして周りに人がいるのに(乗客は少なかったが)大きな声で他人を誹謗中傷できるんだろう。
非常に嫌な気持ちになったが、少し面白い現象だなとも思った。


他人に向けた言葉はその後必ず自分に返ってくる。ブスと罵ったら、お前はどうなんだよという言葉が返ってくる。
だから他人に向けて言葉を投げかけるときはその覚悟をもってやらなきゃならない。それが言葉を使う者の責任である。

このときも僕は、ヤレヤレどんな顔のやつが言っているんだ?と思いながらその男子高校生の顔を見た。
一人はまあお世辞にもイケメンとは言えない顔だったので僕も安心して「おまえ人のこと言えねーだろ」とでも言ってやれそうだったけれども、もう一人はこれが残念なことに文句のつけようのないほどのイケメンだった。これじゃあ「お前鏡見てみろよm9(^Д^)プギャー」ってできないじゃないか!


だけども僕は、こんなに容姿に恵まれた人間が、他人の容姿に対して寛容でいられないということに興味をもった。

たぶん彼は自分の容姿に絶対の自信があるんだろう。というよりそれしか自信のあるところがないのだ。コンプレックスを抱いた人間は、そのコンプレックスを刺激する人間を攻撃せずにはいられない。

彼は自分はイケメンであるということによってしか、自分のアイデンティティを保てないのだ。だから容姿の優れない人を許すことができない。他人をブスと攻撃し、まるで容姿が優れているということが世界で最も重要なことであるかのように振る舞う。
だけどそんなことで自尊心を満たしても穴のあいた器に水を注ぐようなもので、いつまでたってもコンプレックスが解消されることはない。

こういうことは他にもよくあることで、成り上がりの社長が底辺労働者を馬鹿にしたり、高学歴の人が低学歴を馬鹿にしたり、というようなことはよく見る。


ではそういった人たちから身を守るにはどうすればいいか。彼らには「人のこと言えるのかよ」という反論は通じない。攻撃に対して反撃することはできないのだ。
だから僕は見透かしてやるのが一番だと思う。目を凝らしてよく見てみると、それが攻撃ではなく心の叫びだということに気づく。
そうすればたとえ彼らにブスと罵られようが、ああこの人は自分の弱さを直視することができないんだな、と思うことができて傷つかずに済む。
もしあなたが優しい人であれば、それを彼らに指摘してあげてもいい。「あなたは容姿にしか自信がないから他人の容姿を馬鹿にすることで自尊心を満たしているのですね」とでも言ってあげればいい。たぶん猛烈に怒り狂うだろうが彼らの成長のためだ。まあ僕はそこまで優しくないのでやらないけどね。

彼らは剣を振りかざしているようで、じつは自らの最大の弱点を見せているのだ。


コンプレックス (岩波新書)

コンプレックス (岩波新書)